バイオリンミニコンサートで起こったこと。あるいは魂をその声にのせるために。
ヴェネチア市の旗に記されている「羽根のあるライオンのガラス像」
昨日、箱根にあるガラスの森美術館にいってきました。
もともとアクリルとかガラスとか透明なものに興味があるので、ちょっと見ておこうかなと思った次第です。
ガラスの森美術館のヴェネチアングラスは華奢で繊細で薄くて儚くてとても良かったです。
なんだか若干中二病が入って居るかのようなネーミングとデザイン、例えばドラゴンステムコブレットなど、日本人のわびさびの枯れ果てた美的感覚から言えばすこしどころかかなり遠い感覚なのですが、ガラス特有の透明感とあわさった壊れやすくも美麗なデザインは一見の価値ありでした。
そこでちょっとした事件(おおげさ)が起こったので書いておきます。
ちょうどヴェネチアングラスを見回っていたとき、突然、ミニコンサートが始まったのです。
美術館のちょうど館内の広場のようになった室内の一角で、会場の大きさは円形になっていて10メートル四方くらいでしょうか。
演奏はイタリア人によるバイオリンのソロ演奏。
バックバンドは無しで、背後に置かれたアンプとスピーカーからバックの演奏が流れて、それに合わせてバイオリンソロが入るという趣向です。
バイオリンの生演奏を聞くのは10年ぶり位なので楽しみに駆けつけて演奏を聞いたのですが・・・
なんかおかしい。
耳を澄ませてバイオリンの音を聞き取るのですが、どうにも納得の行かない不思議な音がするわけです。
あまりにも聴きなれない嫌な音がするのでいったん会場から離れてもう一度気合いを入れ直して聞き直しました。
でもやっぱりおかしい。
イヤ絶対にこんな音は出てこないはず、というそんな音がバイオリンから出ているのですが何がなんだかわからずに我慢して最後まで聞き込みました。
コンサートが終わると会場からの拍手で奏者のイタリア人は颯爽と去って行ったのですが、僕はひとり納得の行かないまま取り残されました。
何がおかしいってわかりやすいのは高域側の音が安物のアンプとスピーカーから出てくる音そのものだからです。
こんな音は生楽器からは絶対に出てこないのです。
それに分厚いバイオリンの中域もなんだか得体の知れない音色を奏でていました。
それであまりにも不可解で納得できない音だったので、会場の後片付けをしていた女性スタッフの元に歩み寄って聞いたんです。
いまのバイオリンは本当に生演奏ですか?と。
するとスタッフは「生演奏です」と答えるので、「いや生演奏ならあんな音は絶対にしないはずですけど、もしかしてバイオリンにマイクを取りつけてませんか?」
というと、「いえそんなことはありません」とキッパリと否定するのです。
僕は食い下がりました。
「うーん、絶対にあの音はおかしい。本当にマイクでバイオリンの音を拾ってませんか」
「いえ、そんなことはないはずなのですが、もしかすると奏者がつけているマイクにちょっとだけバイオリンの音がはいっていたかもしれません」
というのです。
それを聞いて僕は謎が解けたような気がしました。更に問い詰めると要するにこういうことでした。
バイオリンの底面にマイクがセットされていてその音を背後のスピーカーから流していたというわけです。
つまり目の前で聞いている僕の耳にはバイオリンの生の音と同時に奏者の背後のスピーカーからもバイオリンの音が出ていてそれを同時に聞いていたと言うことになります。
しかもよりボリュームの大きいスピーカーの音の方が支配的になるため、高域側の音を中心に生というよりもスピーカーの音になってしまっていたというわけです。
演奏中もその可能性を疑ったのですがマイクらしきものは見当たらず、直に小型マイクをバイオリンに取りつけているとは思わず、しかもどうきいても音の定位はたしかにバイオリンから出ているように聞こえるのです。
直裁に言えば、あんな小さな室内の会場でスピーカーで音を増幅する必要など皆無なのです。そんな意味の無いことをまさかやっているとは思わずに・・・あの程度のサロンのような室内なら普通にバイオリンの音をそのまま流してもなんの不都合もありません。
これはバイオリンに対する冒涜です。
いいですか、1000万越えのシステムを組んで相当に吟味しても生の音なんて出てきません。
ましてや安物のアンプとスピーカを通すと音はどうなるか、音の魂などみな死んでしまいます。
日本ではストリートで若者が有名になりたいと夢を持って駅前で歌っていますが、なぜかたかだか10人程度の聴衆と数メートルしか離れていないにもかかわらずマイクとスピーカーを使います。
あんなことをしたら聴衆に魂も信念もなにも伝えられない。
バカじゃないのかと。
あなたの声を生で聞かせて欲しい。
スピーカもマイクも通さずに、その決意と信念を聞かせて欲しい。
スピーカーやマイクという機器は嫌々ながらやむを得ず使うものであって、それを通した時点であなたの声は死んでしまい2度と戻らない。
僕らマニアはそれを何とか復活させようともがいていますが、どうやっても蘇らない。
だからストリートの若者に言いたい。
歌うのならマイクを絶対に使うな。
あなたのその声を直接届けて欲しい。