音のハーモニーとハイエンドの音【コラム】
本物のベリリウムドライバーの音を聞いたことがあるでしょうか?
たとえば日本製のTADドライバーの音です。
中華製のイヤホンに使われている「なんちゃってベリリウム」ではない、いわゆる一流のスピーカードライバーであるTADのベリリウムの音。
僕は初めてこのベリリウムの音を聞いたときに、あまりの衝撃でその場に立ち尽くしてしまいました。
ベリリウムはその素材の特性から「高域向け」のドライバーで、トゥイーターに使われていましたが、そこから出てくる高音は、まるで空間に煌びやかな透明のガラスを飛び散らせたかのようでした。
そのちょっと硬い音が空間に飛び散るのです。
「こ、この音は・・・・・」
生まれて始めてそのような高域を聞き、またその後にそのような高域を聞いたことはありません。
それくらいのソリッドな質感を伴った高音でした。
一流の会社が精魂込めてドライバーを作るとこのような音がするモノなのかと感じ入ったモノです。
次に・・・僕はその直後でしたが・・・衝撃が覚めやらぬまま次のスピーカーの試聴に入りました。
こちらも一流中の一流のスピーカーです。
価格はいわゆるハイエンドで、TADドライバー搭載機と本体価格を比較すれば3倍近くこちらのスピーカーの方が高価となります。
同じテストディスクを流して高域に耳を傾けると・・・・その高音は鈍りまくり・・・もはや「高域だけ」聴けば勝負にはなりませんでした。
僕は訳が分からなかったものです。
なぜ、どこにでもあるような「ソフトドームツイーター」をこんなハイエンドに採用してしまうのかと。
高音が鈍ってしまっているではないかと。
ところがです。
全体を通して曲を聴いてみるとTADドライバー搭載のスピーカーと、鈍った高音のソフトドゥームツイーターで、明らかに鈍った高域の方が優れているのです。
単音で聴けばどうという事のない高域が、見事に中低域とつながってまるでそのソプラノは天上に還っていくかのようです。
その瞬間、思わず音を追って座り込んでいた椅子から腰が浮きます。
その時僕は思い知りました。
これがハイエンドのチューニングかと。
ハイエンドというのは「お金に糸目を付けずに」サウンドデザイナーが使いたいものを使いたいだけ使い、その人が思う最高の音を実現するモノです。
このスピーカーを作成するときにこのデザイナーは「この鈍った高域の音がする変哲のないソフトドームトゥイーター」を選択したわけです。
彼が最終的に選んだのは「単音で素晴らしい音のするドライバーではなく、全体のハーモニー」だったわけです。
僕は本当にこの時思い知りました。
「これが本物のハイエンドの音作り」だと。
これ以来、僕は「音のハーモニー/調和」というものをとても大切にしています。
音楽は単音で聴くわけではなく、あくまで全体の美しさを追求するモノであると知ってしまったからです。
間近で見たときにはひとつひとつの木は凡庸でありきたりでも、森として全体を俯瞰してみると初めてその計算され尽くされた美しさや配置の素晴らしさがわかるというものです。
ある一定水準を超えた機器から出てくる音というのはたいていがこのような感じとなり、それは偶然出てくるのものではありません。
それは最終的に個々の優れた部品ではなく、その絶妙な組み合わせからのみ具現化し、最終的に音のハーモニーとなって僕たちの前にその姿を現すのではないでしょうか。